今回は酸素療法の適応や酸素投与の実際についてです。
病院はもちろんですが、在宅でも酸素療法をされている方にリハビリをすることはありますよね。
何を目的に酸素療法はされているのでしょうか?
酸素療法の適応基準は何なのでしょうか?
実際に酸素投与はどのようにされているのでしょうか?
それでは一緒にみていきましょう!
酸素療法の目的と目標
酸素療法の目的
酸素療法とは低酸素症に対して吸入気の酸素濃度(FIO2)を高めて適量の酸素を投与する治療法のことです。
つまり、酸素療法の目的は吸入気の酸素濃度を高めることで低酸素血症を是正し、組織の酸素化を維持することです。
吸入気の酸素濃度を高めることで低酸素血症を是正し、組織の酸素化を維持すること。
最終目標は組織の酸素化改善であり、低酸素血症(血液)だけ改善すればよいのではないという点に注意して下さいね。
低酸素症と低酸素血症の違いについては関連記事をご覧ください。
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酸素療法の目標
酸素療法の目標としてPaO260~80mmHgを維持するように酸素投与量を調節します。
CO2蓄積を伴うⅡ型の慢性呼吸不全では目標値は低酸素性呼吸不全よりPaO2は低めが目標となります。
PaO260~80mmHgを維持するように酸素投与量を調節
CO2蓄積を伴うⅡ型の慢性呼吸不全➡目標値は低酸素性呼吸不全よりPaO2は低めが目標
なぜPaO260~80mmHgを維持するように酸素量を投与するかはヘモグロビン解離曲線からも説明できます。
ヘモグロビン解離曲線って何?という方は先ほどの関連記事を読んでみてくださいね。

酸素療法のモニターとしてはパルスオキシメーターが近年普及しており、リアルタイムの測定にはパルスオキシメーターが非侵襲的で有用です。パルスオキシメーターによる酸素飽和度(SpO2)はSaO275%以上で近似すると言われています。
動画でも説明しています↓良ければ見てみて下さいね(^^)
急性呼吸不全に対する酸素療法
急性呼吸不全に対する酸素療法の開始基準

一般的には室内気にてPaO2<60TorrあるいはSaO2<90%の急性呼吸不全が酸素投与の適応となります。
ただし、PaO2≧60Torrであっても酸素消費量が増大している病態である重症外傷や急性心筋梗塞などでは低酸素症が生じる可能性があるため酸素投与を行う場合があります。
なおⅡ型呼吸不全で慢性呼吸不全の急性増悪の場合はPaO2≦55TorrあるいはSaO2<90%を酸素投与の適応としても良いと言われています。
細胞レベルの適切な酸素化を保つ(=低酸素症を是正する)ためには低酸素血症だけに目を向けるのではなく、ヘモグロビンや心拍出量といった組織への酸素運搬因子や組織の酸素消費量といったことも考慮する必要があります。
重症外傷後や心筋梗塞後や術後になぜ酸素投与されるのかも理解できますね。
動画でも説明しています↓良ければ見てみて下さいね(^^)
Ⅰ型急性呼吸不全の初期酸素投与の実際

Ⅰ型急性呼吸不全の場合は、初期酸素投与量も目標はSpO290%以上です。
換気状態にそれほど留意する必要がないため、第一選択は鼻カニュラで、必要に応じてベンチュリ高流量系システムやリザーバー付マスクを使用します。
それでも酸素化が不十分な場合は人工呼吸管理に移行します。
Ⅱ型急性呼吸不全の初期酸素投与の実際

Ⅱ型急性呼吸不全ではⅠ型呼吸不全とは違い、呼吸性アシドーシス(CO2ナルコーシス)に留意する必要があります。
第一選択は鼻カニュラ、もしくは呼吸パターンに影響を受けず安定した吸入酸素濃度が維持できるベンチュリマスクを使用します。
PaCO2が上昇し続ける場合は、換気の改善のために人工呼吸管理に移行します。

上の表はNPPVの選択基準と除外基準です。
Ⅱ型呼吸不全の場合は、酸素化だけでなく換気状態にも留意する必要があります。
ただし、Ⅰ型呼吸不全よりも注意しないといけない要素が多くなるからといって酸素投与をためらってはいけません。
状態をみながら呼吸性アシドーシス(CO2ナルコーシス)だと判断したときは主治医・看護師に報告し、人工呼吸管理といった換気改善を図る必要があります。
動画でも説明しています↓良ければ見てみて下さいね(^^)
慢性呼吸不全に対する酸素療法
慢性呼吸不全に対する酸素療法の目的

慢性呼吸不全に対しては、長期(在宅)酸素療法(HOT(ホット):home oxygen therapy) が行われます。
慢性呼吸不全に対する酸素療法の目的は、症状(呼吸困難)の軽減、QOL の向上、生命予後の改善に集約されます。
在宅酸素療法により、低酸素血症及び組織低酸素の改善・肺循環における低酸素性血管攣縮を防止して肺高血圧症の改善・二次性多血症の改善といった生理学的効果を及ぼし、さらに運動能力の向上、精神神経症状の改善、死亡率の低下、入院期間及び入院回数の減少、家庭復帰といった効果をもたらすとされています。
慢性呼吸不全に対する酸素療法の適応基準

上の表は在宅酸素療法の適応基準です。
単なる低酸素症に対してだけでなく、肺性心・肺高血圧症の予防や改善、心疾患、睡眠中や運動時の低酸素血症にも適応となっていますね。
慢性呼吸不全に対する酸素療法の実際

HOTの適応は、安静時だけでなく睡眠中や運動時も考慮する必要があります。
目標はPaO2が60Torr以上となります。
Ⅱ型呼吸不全患者の場合は、適宜動脈血ガス分析も行いながら高二酸化炭素血症の程度によってはNPPVも考慮する必要があります。
またHOT導入の際には、ご本人だけでなくご家族も含めた教育が必要となります。
また、身体状態が変わり、HOT導入後の流量変更などもあるため再検査や再教育が必要となることもあります。
HOT導入する際、ご家族が疾患に対する理解が乏しく、「単に怠けているだけなので気合を入れたら酸素なんて必要ないんじゃない?」とか、「酸素濃縮器を置くと場所がとられるので拒否します」とか、「酸素のチューブが邪魔なのでHOTをやめてほしい」と言われたことが実際にあります。
疾患だけでなく、なぜHOTが必要なのかをご家族に対しても説明する必要があります。
ご家族が協力的かどうかもHOTが継続できるかどうかを左右しますので、セラピストは説明できるようにしておきたいですね。
動画でも説明していますので良ければ見てみてくださいね!↓
まとめ
今回は酸素療法の適応や酸素投与の実際についてでした。
✔酸素療法の目的は、吸入気の酸素濃度を高めることで低酸素血症を是正し、組織の酸素化を維持すること。
✔酸素療法の目標は、PaO260~80mmHgを維持するように酸素投与量を調節。CO2蓄積を伴うⅡ型の慢性呼吸不全の場合は、目標値は低酸素性呼吸不全よりPaO2は低めで設定。
✔酸素療法の際のモニターとしてリアルタイムの測定にはパルスオキシメーターが非侵襲的で有用。
✔一般的には、酸素療法の適応は室内気にてPaO2<60TorrあるいはSaO2<90%の急性呼吸不全。上記に当てはまらなくても酸素消費量が増大している病態では低酸素症が生じる可能性があるため酸素投与。Ⅱ型の呼吸不全の場合は換気状態の考慮も必要。
✔慢性呼吸不全に対しては、長期(在宅)酸素療法(HOT:home oxygen therapy) が行われ、酸素療法の目的は、症状(呼吸困難)の軽減、QOL の向上、生命予後の改善である。
✔HOT適応は、安静時・睡眠中・運動時も考慮が必要で、目標はPaO2が60Torr以上。Ⅱ型呼吸不全患者の場合は、PaCO2の程度によってはNPPVも考慮が必要。
以上、酸素療法の適応や酸素投与の実際についてでした。
☑低酸素血症だけに目を向けるのではなく、細胞レベルで適切な酸素化を保つことが重要!➡ヘモグロビンや心拍出量といった組織への酸素運搬因子や組織の酸素消費量といったことも考慮!
☑Ⅱ型呼吸不全の場合は、酸素化だけでなく換気状態にも注意が必要だが、酸素投与をためらってはいけない。状態をみながら呼吸性アシドーシス(CO2ナルコーシス)だと判断したときは主治医・看護師に報告し、人工呼吸管理などで換気改善を図る。
☑ご家族が協力的かどうかもHOTが継続できるかどうかを左右するので、HOT導入時は疾患だけでなく、なぜHOTが必要なのかをご家族に対しても説明する必要がある。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ご質問やご意見などありましたら、お問い合わせから宜しくお願い致します(^^)
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